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この時代に生まれる君へ

執筆:ラボラトリオ研究員 畑野 慶


生を享けるということは、同時に死を受け入れるということ。世は諸行無常である。故に赤子は泣くのやもしれぬ。君はどうであろうか。どうか元気に泣いておくれ。然れど、この老醜を晒す時代に生まれることを嘆くべからず。寧ろ歓喜せよ。まやかしの延命治療は限界を迎え、新たな時代が今まさに始まろうとしている。君はまっさらな心身ですくすくと歩み出せる。黴臭い固定観念や、錆び付いた成功体験に囚らわれず。先をゆく私はそれらを払わねばならぬ。生きながら生まれ変わらねばならぬ。君からの学びは多々ありそうだ。

君と巡り会うのは、今世で何度目になるであろう。死もまた無常である。永遠に生きていることもなければ、永遠に死んでいることもなし。常に同じところに留まれる、或いは閉じ込められると思うべからず。諸行無常とは、盛者必衰と似て非なる。無間地獄にも光が射すという希望である。良きも悪きも決して続かぬ。これは真理である。終わりなきと思うのは慢心である。自分だけはずっと悪いなぞと自惚れてはならぬ。明けぬ夜はなし、上がらぬ雨はなしと、月並みな言葉を付け添えておく。

激動の只中で生を享けた者は、ややもすれば“強くあれ”と育てられがちである。愛されているが故である。が、殊更それを意識してはならぬ。意固地に無理をしてはならぬ。弱くていい。ただ弱いだけの人も、強いだけの人もいず。故に人は支え合う。強さとは何か、狡さとは異なるのか、君は自分の五感で学び取ってゆくであろう。見て聞いて触って。好奇心は飛躍の翼である。やがて融通無碍に歩む術を身に付ける。焦らなくていい。人は人。一番を志すより一流になれ。肝要なのは誠実であること。君は必ず大輪の花を咲かせる。

咲いた花はいずれ散る。無常であるからこそ継続は尊い。古より伝わるものを値打ちでは計れぬ。掛け替えのなきものとして後世に伝えねばならぬ。言葉であり、文化であり、国の形である。これを国土と捉えてはならぬ。誤解を恐れずに言えば、国土の一部を失っても守らねばならぬものがある。日本語の使用を蛮族に脅かされた時、激しく怒ろうではないか。私たちの魂はこの言葉の中に宿る。諸外国の者たちも独自の文化をそれぞれ有する。言わずもがな、決して下に見ず、敬意を払わねばならぬ。自国を卑下する者を信用してはならぬ。郷土愛なき者は根なし草である。視野を広げ、大海を知れ。然すれば、この国の良さを再確認するであろう。

私は来世もこの国に生まれたい。そして同じように筆を執りたい。何度生まれ変わろうとも、この道をゆく。静かな決意である。いずれ途絶える無常の定めと知りながら、斯くありたいと願う。一度途絶えた道の先にも、またその続きが立ち現れるやもしれぬ。金になろうとなるまいが、評価されようとされまいが、斯くして筆を執り続けてみせよう。きっと前世もそうであった。君は売れぬ奇妙な作家に出会っているか。覚えていたら教えておくれ。まだ書いているのかと笑っておくれ。君がこれを読める日まで待っていよう。ひっそり打ち立てた決意と共に。

“習慣という怪物”と言ったのは、かの三島由紀夫である。決意を持続させる為には、良い習慣を身に付けねばならぬ。好きも嫌いもなく、無理をせず、淡々と能う限りの鍛錬を日々続ける。思い続けているだけでは怠惰の沼に沈み込む。実際に動き、習慣を飼い慣らしてしまえば、そこに心は囚われぬ。朝な夕なの食事と同じ。故に私は喜々とせず、今は少しばかり不機嫌である。然したる理由は見当たらず、奇しくも曇りというだけだ。君に大事な手紙を書いているのだが、折角の休日に雨が降ったりするように、人の心もそういうものだ。思わぬことで楽しくなり、思わぬことで悲しくなる。人生は発見に満ちている。

さあ、君はどんな人生を紡ぎ出すであろうか。私はその物語に脇役として登場する。名演技からは程遠い、素のままの表情で。

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【畑野 慶 プロフィール】
祖父が脚本を手掛けていた甲府放送児童劇団にて、小学二年からの六年間、週末は演劇に親しむ。そこでの経験が、表現することの探求に発展し、言葉の美について考えるようになる。言霊学の第一人者である七沢代表との出会いは、運命的に前述の劇団を通じてのものであり、自然と代表から教えを受けるようになる。現在、neten株式会社所属。

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