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エレヴァンの平和の祈り

執筆:ラボラトリオ研究員  七沢 嶺


エレヴァンはアルメニア共和国の首都であり、四季のある豊かな地域である。

天高くそびえるアララト山は、日本の富士山に似ている。ぶどうの産地でもあり、『甲州』品種を遥か遠くの日本、甲斐の国にもたらした。
エレヴァンの日の光あふれる美しい地は、山梨県の甲府盆地と響き合うものがある。

2017年、71人がこのエレヴァンの地に集い、Haiku:俳句を詠んだ。その歌は、アルメニアと日本の架け橋になるだけではなく、世界平和の祈りであった。

私は戦争を経験したことがない。歴史の学習としてのみである。
アルメニアでのナゴルノ・カラバフ戦争について、日本での長崎・広島の原爆について、私に語る資格はないかもしれない。
仮に語ったとしても、政治に歪められた誤った認識によるものかもしれない。

「七一俳句」の祈りは何者にも永久不可侵な純粋な言葉であったと確信している。そこから立ち上がる私の言葉もまた真であると信じ、ここに表明する。

「七一俳句」を手に取り、その装丁の美しさに驚いた。
私は本というものに特別な気持ちを抱いているから装丁にも気を配る。そして、綺麗でどことなく悲しみを帯びた画がある。空を翔ける少女の下には平和の象徴、鳩の陰影がある。

彼女は「千羽鶴の少女」という名で知られる広島の原爆被災者ではないだろうか。

この本は、今まで人類の歴史の中で起こった全ての戦争で亡くなったり、傷ついたり、孤児になったり見捨てられたり、住む場所を失ったりした人々に捧げます。
(「七一俳句」より引用)

明日も明後日もあると確信しているからこそ、笑顔で生きることができる。しかし、そのような状況にない人たちもいる。
私は今の幸せをより強く実感するとともに、一日一日を真剣に生きていなかったと反省した。

  全て静まり
  穏やかな朝
  生まれ変わる
  マルガリャン・エラ 十二歳(「七一俳句」より引用)
※母国語の音韻を大切にするため五七五ではなく三行詩という詩型をとる

とても大切なことを教えてくれている。
私は、毎朝目が覚めることは当然の日常になっており、「忙しい」という言葉に埋没し、顔を洗ったあとに鏡をみて自己を顧みることもしない。
十二歳の詠み手が抱える重い歴史と今を生きる強い意志に、私は目が覚めたのである。

  戦うな
  そう兵士が命ずる
  日が来てほしい
  
ヴァルジャペチャン・アラクス(八歳)

この高潔で純粋な祈りを誰が否定するだろうか。今、人類が盲目になっていたとしても、この祈りの前に引き金は引けまい。
七一の祈りは、世界に届いたと確信している。言葉の力とは、世界を変えるほどに強いのである。祈りの光は、人類の進むべき正しい道を照らし、豊かな地に播かれた種子を育み、言の葉を繁らせ、平和の花を咲かせたのである。

本書の最後に白紙の頁がある。七一の祈りを受け取った読者が自ら祈りの歌を記すことで完成する。
私は次の三行詩を書き記した。

  エレヴァンの七一(ななじゅういち)の鳥渡る

七一の高潔な祈りは、光の鳥となり、アララト山の遥か上空、世界を翔けたのである。

最後に、本書に収録されている歌の中から一部を引用する。(私の本心としてはすべて引用したい。)

七一人全員の祈りに心より敬意を表します。

  眠る人の
  夢が芽を出す
  桜の枝

  ハレンツ・エドワルド(詩人)


  無垢なチューリップ
  兵士の熱い血で
  赤く染まる
  
ハチヤン・ダヴィッド(作家)


  山の春
  喜び悲しみ
  半分こ
  ゲヴォルギャン・ゴハール(看護師)


  てをつなぎ
  せかいのみんな
  ともだちだ
  上原孝太(六歳)


  きれいな朝
  安らかな命が消え
  手には鶴
  ムホヤン・メリ 十四歳


  われらみな
  しらべ重ねる
  銀河なり

  水野珠世


  鮮やかな命
  闇を内に秘めて
  虹を見た
  タデヴォシャン・ツォビナル(画家)


  光あれ
  命輝く
  今ここに
  
大野靖志


「七一俳句」制作の光日本・アルメニア科学教育文化センターの皆様、祈りの歌を詠まれた皆様に心より感謝申し上げます。

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【七沢 嶺 プロフィール】

祖父が脚本を手掛けていた甲府放送児童劇団にて、兄・畑野慶とともに小学二年からの六年間、週末は演劇に親しむ。
地元山梨の工学部を卒業後、農業、重機操縦者、運転手、看護師、調理師、技術者と様々な仕事を経験する。
現在、neten株式会社の技術屋事務として業務を行う傍ら文学の道を志す。専攻は短詩型文学(俳句・短歌)。


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